横浜市立大学 附属病院 消化器内科
肝胆膵消化器病学
Department of Gastroenterology and Hepatology
Yokohama city university school of medicine
ホーム>研修医の先生方へ>キャリアパスについて>NIH
National Cancer Institute / NIH 留学体験記
平成18年卒 加藤真吾
1.はじめに
私は、2012年5月末から米国、メリー ランド州の米国国立衛生研究所(NIH; National Institutes of Health)に留学しています。私にとっての留学は、基礎研究のトレーニングが最大の目的でした。今後、留学を希望される方の参考になればと思い、体験 記を書かせて頂きます。
2. 所属研究室について
NIHの中の所属は、 NCI(National Cancer Institute)、Vaccine Branch、Molecular Immunogenetics and Vaccine Research Sectionとなります。Principal Investigator (PI) であるJay A. Berzofsky博士は、Vaccine BranchのChiefも務められております。Molecular Immunogenetics and Vaccine Research Sectionは腫瘍免疫グループとHIVグループに分かれており、私は腫瘍免疫グループに属しています。腫瘍免疫グループでは、主に脂質を認識するT細 胞であるNatural Killer T細胞(NKT細胞)の研究を行っています。Associate Scientistである寺部正記先生を中心に、それぞれのポスドクが独立したテーマを与えられて研究を進めていますが、グループ全体として『腫瘍免疫に おけるNKT細胞の機能解析』という大きな枠組みは共通しているため、共通した手技・試薬を用いることが多く、議論しやすい環境となっています。さらに、 実験設備として、各ポスドクに専用のクリーンベンチ、インキュベーターが与えられ、フローサイトメトリーの機械もラボ専用のものが2台あるという非常に恵 まれた環境で研究させていただいております。研究経過は週一回の全体ミーティングで順番にポスドクが発表する他、毎週グループミーティングもあり、一週間 の成果を報告します。さらに、ポスドクの指導を大切にして下さっており、自分から求めれば実験計画から実験結果、学会発表の抄録、プレゼンのスライドから 台詞に至るまで全て詳細に指導して下さいます。
3.留学先としてのNIH
NIHに留学して 二年経っての感想は、英語が苦手な人が留学の候補として考えるには、NIHは最良の選択肢の一つではないかと思います。NIHには非常にたくさんの日本人 が在籍しており、日本人だけの勉強会もあって、日本人研究者同士の交流も盛んです。また生活面では、何といっても先人達が残してくれ、一部は今も引き継が れている詳細なブログがありますので、それを参考にして生活の立ち上げをすることが出来ます。これは最初の頃本当に役に立ちました。また、子育ての環境と しても、治安も良く、四季もあって、申し分ないと思います。
4.留学の経緯
私の留学のきっかけは、2010年にワ シントンDCで開催された、2010年の米国癌学会総会(AACR)で、現在の上司である寺部正記先生にお会いしたことでした。当時の私は、研修医を終 え、大学院での研究を始めている際中で、将来について悩んでいる時期でした。私は医学部の学生の頃より基礎医学教室に出入りをさせて頂き、基礎的な分子生 物学の実験手技を学んできました。その頃より、がん研究に強く興味を持ち、一方で臨床への興味も捨てきれず、将来は臨床と研究を両立できないかと考えてい ました。そして、研修医として臨床を学ぶ中で、膵臓がんの臨床に強く興味を持ち、臨床での専門を膵臓がんに決め、大学院での研究も、膵臓がんに関するもの を希望しました。しかし、学生の頃にただ楽しくて基礎実験をしていたことに比べ、論文という結果を出さなければならない大学院での研究は、「ただ実験手技 が出来ることと、論文を一本まとめることは大きく異なるものである」という事実を痛感し続けるものでした。その様な状況でお会いした寺部先生は、「私はと にかく長い時間働けます」という日本人らしいコメントをした自分に対し、『論理構築をする力が無ければ、長い時間働いても意味が無い』というコメントをし て下さいました。この一言が非常に印象に残り、この先生からトレーニングを受けたいと思ったことが、留学のきっかけです。
私の在籍してい る研究室では、全てのポスドク希望者に面接を行います。面接では、まず自分の博士課程での研修を研究室全員の前で発表し、質疑応答を行います。その後、 PIと二人のstaff scientistによる面接(というより口頭試問に近かったですが・・・)を行い、在籍している全てのポスドクと話をします。この結果、後日合否の通知 が来ます。私の場合は、『自分で研究費を取得できるなら採用可』という補欠合格のような状況で、その後に上原記念生命科学財団の研修費を取得して、何とか 本採用して頂いた、という流れでした。
5.留学先の選び方について
留学後に知った ことは、アメリカにおいて、ポスドクのトレーニングをしてくれるラボはかなり稀であるということです。博士号を持っているということは、基本的には自分一 人で論文を構築出来る能力を持っているということであり、ポスドクをトレーニングするという意識を持っているラボは稀なようです。この点に関しては、ポス ドク側の希望が何であるかにより解釈は異なるので、良い悪いは一概には言えませんが、少なくとも私のように論文という結果だけでなく、研究のトレーニング を受けることも目的として留学を希望している場合、しっかりとラボを選ぶ必要があるようです。私のラボは、PIのJay A. Berzofsky博士とstaff scientistの寺部先生の二人体制で、自分から望めばいくらでも指導してくださるので、自分の希望には十分に合致しており、非常に満足しておりま す。
6.留学において最も大切なこと
NIH近辺は日本人が 多く、情報も集めやすいので、比較的生活しやすいと思います。しかし、それでも異国の地で生活を立ち上げるというのは想像以上に大変で、何をするにも時間 も労力もかかります。日本では考えられないトラブルに巻き込まれることもしばしばです。そこで、よく言われることですが、留学において最も大切なことは何 と言っても家族の理解です。本人は仕事に行っていれば良いですが、その間、家族はアメリカで生活をすることになり、楽しいことばかりではありません。特に 子供のことなどは、多くの面で奥さんに頼ることになります。私の留学生活も、家族の支え無しには到底成立しませんでした。留学を希望される方は家族の理解 を得ることが第一歩だと思います。
7.最後に
私は、医師としては非常に早い時期に留学し ました。渡米時満30歳というのは、2年の初期研修医後、博士号を取得して渡米するには最短に近い時期です。このような時期に留学が成立したのは、横浜市 立大学肝胆膵消化器病学の多くの先生方の支えがあったからです。留学をして何を得て、帰国後に何を成したか、が一番大切なのだと思います。帰国後に、私が 留学で得たものを少しでも教室のために役立てることが出来れば幸いです。